【読書】海街diaryシリーズ:吉田秋生 | Rucca*Lusikka

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吉田秋生さんの海街シリーズの第5巻が出ました。鎌倉を舞台にした四姉妹が主人公のマンガで、新刊が出るのを毎回とても楽しみにしています。

登場人物のひとりひとりが丁寧に描かれていて、四姉妹や彼女を囲む人たちのひとりひとりが実際鎌倉にリアルに住んでいるような気がしてしまいます。

 

両親が離婚し父は失踪、母もその後再婚し家を出ていったため祖母に育てられた香田家の三姉妹。その祖母も亡くなり、いまは鎌倉の大きな古い家で姉妹だけで暮らしている。

長女・幸は市民病院の看護師、次女・佳乃は地元の信用金庫勤め、三女・千佳はスポーツ用品店の店員と、それぞれにもう社会人。

ある日、女の人と駆け落ちして以来行方不明だった父親が亡くなったという知らせが届く。父は再婚したその女性との間に女の子をもうけていた。だけどその女性とは死別してしまい、その後山形でまた再婚して、自分の子と新しい奥さんの連れ子の小さな男の子2人と5人で暮らしはじめて間もなく、末期がんで急に亡くなったという。

 

その父の葬儀で、姉妹ははじめて、腹違いの末の妹「すず」に出会う。

 

第一巻はなかなか複雑な事情からのスタートでした。でもこの一巻の一話目で、もうこの話は絶対に読み続けなくてはならない!と思ったのでした。ネタバレになりますがあらすじをもう少し。

 

長女の幸以外は父親の記憶が薄く、父が死んだと言われてもなんの感慨もわかない。幸は自分たちを捨てた父を許せないでいるので葬儀には行かないという。なので次女の佳乃と三女の千佳だけで山形に向かう。

父の再再婚相手の女性は、頼りないタイプの人で泣いてばかりで挨拶もままならない。代わりに中学生のすずが無表情で淡々と異母姉たちや参列者に応対している。

 

葬儀は進み喪主の挨拶という時、取り乱し中の父の奥さんは自分にはとても出来ないという。ではすずちゃんにやってもらおうか、あの子はしっかりしているし・・・と周りの大人達がいいかけた時、突如、出席しないと言っていた筈の長女の幸が現れ、事情を察知しきっぱり言う。

 

「それはいけません!これはおとなの仕事です!おとなのするべき事を子供に肩代わりさせてはいけないと思います。」

 

ここまでずっと無表情だったすずが、びっくりして幸を見る。

幸は看護師なので病気の子どもがいかに大人びてしまうかというのを知っている。それはとても哀しいことなんだと。

 

そして今までたくさんの患者の家族を見てきている。父の奥さんみたいな人は死んでいく人とまともに向き合うことは出来ない。おそらく父を看病し最後を看取ってくれてたのはこの末の妹だろうと察知する。

 

葬儀が終わり三姉妹が帰る時、見送りに来たすずに幸はこういうのです。

 

「すずちゃん、大変だったでしょうありがとうね。あなたがお父さんのお世話をしてくれてたんでしょう?お父さんきっと喜んでると思うわ。本当にありがとう。」

 

とここで、いままでずっと無表情だったすずが大号泣するんですよね。

 

”降るような蝉の声もかき消すことが出来ないほど” に。

”この子はこの夏何度ここで涙を流したんだろう。もう助からないお父さんとずっとひとりで向き合ってきたんだ。”

 

父がずっと大事に持っていたという「鎌倉に置いてきた娘たちの写真」を見ながら、すずの号泣とともに三姉妹もここではじめて父を懐かしみ涙する。

 

それは4人が「姉妹」になったという瞬間の感覚の絶対的な共有であり、その後全く迷いなく幸は、

 

「すずちゃん、鎌倉であたしたちと暮らさない?」といい、すずも「行きます!」と即答する。

 

そこから鎌倉を舞台に四姉妹の話がスタートしていくのです。これが第一話。

 

 

もうね、私もこのすずの号泣にやられました…何回読みなおしてもここの場面は泣いてしまう。

 

死んでいく人間と向き合うことの厳しさ…私も父の入院から亡くなるまでとてもそれを感じた。私の母も病院にいけなくなってしまった。

 

「許容量が小さいからって、それを責めるのはやっぱり酷なのよ」

 

幸はこう言う。患者の容態の悪さに尻込みして見舞いに来れなくなってしまう家族・・・これは現場でよくあることなんだろう。強い人間、またはまだ向き合ったことがない人間には「信じられない!」のかもしれない。でもそれを責めるのは酷なんだと。

 

作品の中で「弱い人間」と描かれている、父、母(離婚後姉妹を置いて再婚しその後もKY行動が多い)、そして父の再再婚相手の奥さん。

2巻ではその三姉妹の母という人が出てくるんだけど、この人もなんとも頼りない人という設定。いつも不幸を誰かのせいにし、誰かに依存してないと生きていけないタイプの。

 

でも姉妹の祖母の七回忌の墓前で「お母さんの思うような娘になれなくてなくてごめんね」と手を合わせ、姉妹が大事にしてる古い家も「私には息が詰まるような家だった」という母。きっと彼女は彼女なりに、教育者で厳しい祖母のひとり娘として様々な苦しみがあったのだろうと感じさせます。

 

そして正義正論の権化のような?長女幸も、実はもう三年も妻ある医師と交際してるという自己矛盾を抱えていたりとか。

 

その他、次女佳乃、三女千佳、にも恋愛や仕事のそれぞれ、鎌倉に来たすずにも新しい学校生活のドラマがそれぞれ、取り巻く人々にもそれぞれ。もうね、それぞれがてんこ盛りすぎて(笑)、一巻読むのも結構時間がかかります。でも読んだあといつも、なんかこう、じわじわといいな!っていう読後感があるのです。

 

こういう骨太で繊細な人間ドラマはやっぱり大御所の作家さんの作品ならではですよね。深いけど決して重たくはないのです。むしろ行間で読ませる部分も多くて。

 

そんなわけで第五巻も充分に楽しんで読ませて頂きました。未読の方には少しネタバレしてしまいましたがこれホントおすすめマンガです。ぜひ一巻から読んでみてくださいませ☆

 

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