眉山:謝ることで許されようとしない誇り高い女の一生 | Rucca*Lusikka

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ひさびさ読書日記です。今回読み終わった本はさだまさしさんの小説「眉山」。

東京の旅行代理店で働く咲子は、故郷の徳島で一人で暮らす母・龍子が末期癌であと数ヶ月の命と知らされる。
ちゃきちゃきの江戸っ子で、気風のいい母は、「神田のお龍」として、沢山の人々から慕われてきた。
徳島に滞在し、母を看取ろうと決心した矢先、咲子は、母が自分に言わずに「献体」を申し込んでいたことを知る。
それはなぜなのか。やがて咲子は、母が残した箱から、まだ会ったことのない父のことと、母の想いを知っていく―。

※この先ネタバレです。これから小説を読む人、映画を観る人はお気をつけ下さい!!

まず母、龍子がとてもステキです。チャキチャキの江戸っ子気質で、姉御肌。気風が良く、面倒見が良く、白黒ハッキリつけ、正義感厚く、そして誇り高いのです。

そんな強烈な母に育てられた咲子も魅力的です。母に似ず?大人しく控えめながら、しなやかでのびのびした強さと包容力のある女性だと思います。

映画では母の龍子役が宮本信子さん、娘の咲子役が松嶋菜々子さんになってます。小説を読んだ後、これはすごいピッタリなキャスティングだなぁって思いました。

咲子はずっと父は死んだと思ってた、でも17歳のときに自分が父と母の正式な結婚によって生まれた子供ではないことを知ります。

龍子はその時咲子にこう言ったのでした。

「咲子。お母さんはあなたのお父さんが、だーい好きでした。だからその人の子供は私の宝。悩んで苦しんで産みました。」

咲子を「私生児」と呼ばれる子供にしてしまったことを謝罪しながらも、背筋を伸ばしてきっぱりと、あなたはだーい好きな人の子供、と言う龍子の姿に、咲子は嬉しいものを感じながら、母にはこれ以上の事情は聞けなかったのでした。

咲子は、母には母の事情があったのに違いない、と、龍子に父のことを尋ねるのを自然に控えられる、そんな娘なんだなぁって思います。

母はなぜ、徳島で暮らすことを選んだのだろう?
母はなぜ、自分の死後、体を献体することを決めたのだろう?

咲子の母の人生に対する謎は、母が残した箱の中の写真と封筒によってほどかれていきます。ほどかれて見え始めた母の恋。

この浮かび上がり方がとてもいいです。曲がったことが大嫌いな龍子のこれまでの人生。道ならぬ恋をしてしまったことに対する、龍子のけじめのつけ方が、そのまま龍子が生きてきた道なんですよね。そこから咲子の父親に対する、深い深い愛情が浮かんでくるのです。後悔もない、未練もない、負い目もない、罪悪感もない、自分自身への納得のいくけじめをきちっとつけ、咲子を誇りに思う姿がね、カッコイイですよ、神田のお龍!!

人間誰だって、正しい道ばかりを通っては生きて来れない。正しい恋ばかりできるとも限らない。ただ、そのことに対する責任のつけ方というのか、想いの貫き方、そのあたりにその人の人間性というか、幸せか不幸かが現れるんじゃないかな。

昔、ある映画でこんなセリフがあったそうです。

A 「・・・みんな私が悪かったのよ」

AはBに対して非常に悪いことをしてしまい、Bはそれによって何もかも失ってしまった。AはBに謝罪するのですが、そのAにBはこういうのです。

B 「そうやって自分を許すくせに」

これ、すごいやり取りだなぁって思いました。誰かをひどく傷つけてしまって「私が悪い」と思ったときに、謝罪することは人間として当然のことだと思います。でもどんなに反省して謝罪したとしても「絶対に許されない罪」と言うものも現実にあると思います。

謝ることで救われようとする、謝ることで許されようとする、Aの心をバッサリ切ったBの返事・・・。

神田のお龍は、きっと「謝ることで自分を許すこと」を潔しとしなかったんだと思う。

「だーい好きな人」に対する愛を、龍子は、その人からきっぱりと遠ざかることで貫いた。自分の純粋な恋が、そうでないものとされることへの理不尽を(おそらく)思いながらも、それをきちんと罪と認め、決して自ら許されようとしない。だから誇り高くいられるのだ。

 

ラストシーン、阿波踊りの喧騒と熱気の中、龍子と咲子の前に現れた、車椅子に乗った紳士・・・そしてその人と今すれ違う・・・。

父は、目を赤くして、じっと母の顔を見つめていた。
だが、母は、ただの一度も父へ視線を送らなかった。
毅然として表情を崩すこともなく、彼女の生きてきた道のとおりに。

阿波踊りの人の波の中、時間が止まった様なこのシーン・・・映画でどんな風に撮られているんだろう?と思うと観にいきたくなります。

無言の母に胸を打たれた。母は「一生を賭けた大好きな人」と今、命懸けですれ違っている。
そうして神田のお龍は「大好きな人」に最後まで一切迷惑をかけずに死のうというのだ。
どれほど切なく、苦しく、愛おしいことだろう。

ああ、かっこいいなぁ、神田のお龍!!

そして、なぜ彼女が咲子と二人で生きていく場所に徳島を選んだのか、そして献体の理由、それは全てこの「大好きな人」の存在の中に含まれていたのでした。その人のふるさとが徳島であり、そしてその人は医者だったのです。語られない龍子のその人への愛と、二人がどのように愛し合っていたのかが、浮かび上がったラストでした・・・。

 

前に水曜の朝、午前三時という小説を読んで感想を書きました。主人公の直美は婚約していた恋人の「ある秘密」知り、彼から逃げ、別の人と結婚してしまいます。

大阪万博でコンパニオンを務めたほどの「新しい時代の自由な女」であったはずの彼女は、自分がいかに旧来の価値観による差別的偏見に支配されていたのかを知ります。そしてまた自分はそれを乗り越えられないんだという事を知るのです。彼女にとって、それは自分への敗北でもあったのです。

でも彼に対する愛は消えないのです。その後他の人と結婚して子供までできたのに、彼女は一年に一度、彼との逢瀬を続けていて、やはり末期癌で死を悟った時、それを自分の娘に「ぬけぬけと(懺悔ではなく、まるで恋する少女のように)」告白するのです。

それでもこの直美に、なにかスカッとしたものを感じるのは、彼女が充分、自分の罪を認めていて、罰というのも認めていて、許されることで救われようとしていない所なのでしょうか??

神田のお龍と直美、恋の貫き方は全く違うけど、どこか共通点があるような気がしたのでした。

夏空

子供の頃、夏休みに三鷹に住む叔母の家に遊びに行った時、高円寺の阿波踊り祭りがちょうどやってるというので、叔母に浴衣を着させてもらい、従姉妹と一緒に見に連れて行ってもらった記憶があります。

阿波踊りがどんなものかも知らなかったのですが、その踊りのすごい熱気に、自分も列に入って踊りたくなったのをおぼえています。本場徳島はもっときっとすごいんだろうなぁ~~。

そんなわけで眉山、いい小説でした。

映画化もされてDVDが出ていますね。監督は犬童一心さん、主演は松嶋菜々子さんです。

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