先週の金曜日、大塚商会の実践ソリューションフェア2013でのイベントで行われた、アートディレクター/クリエイティブディレクター・佐藤 可士和さんのセミナーを聴きに行って来ました。
国立新美術館のシンボルマークデザインとサイン計画ほか、ユニクロ、今治タオル、ふじようちえんのブランド戦略に携わるなど幅広いジャンルで活躍しているアートディレクターの佐藤可士和氏。常に斬新なデザインやアイデアは、どのように創り出されるのか。佐藤氏が手掛けた私たちの日常の身近にもある作品などを事例に取り上げながら、その作品をデザインするなかで活用されたクリエイティブシンキング(論理の枠にとらわれないさまざまな視点から物事の本質を見極める思考法)についてご講演いただきます。
【東京会場】 クリエイティブシンキング!?デザインによるビジネスの新しいカタチ? | 特別セミナー | 大塚商会 実践ソリューションフェア2013 in 東京 より引用
佐藤可士和さんといえば世界的に有名なクリエイターです。その方のお話をナマで聴けるというこのセミナーを知り応募しました!抽選だったのですが幸運にも当たったので参加して参りました。
90分のお話でしたがあっという間でした。最初は次元が違いすぎて圧倒されるだけかもしれないと思いつつの参加でしたが、たしかにすごく圧倒されましたが、自分のレベルでも「できること」の具体的なヒントを幾つも頂いて帰ってきましたよ!
今回はその一部ですがブログで紹介いたします。
ブランディングは下から上には行かない。最初はグンと高く!
まずはユニクロの世界戦略のディレクションのお話から。
佐藤可士和さんのwebサイト(http://kashiwasato.com/#uniqlo)にその内容は詳しいです。引用はできませんので画像はこちら↑でぜひご覧ください。
佐藤さんは、日本ではすでに「どこにでもある」イメージが強くコモディティ化されていたユニクロを、ニューヨークやパリやロンドンで、日本発の高機能・高品質でさらにハイファッションで「COOL」なブランドとして展開させました。
そのための各地におけるメディアジャックの様子がすごいです。NYやパリやロンドン中のあらゆる広告媒体にユニクロのロゴが。買えるだけの広告媒体をすべて買ったそうです。2階建てバスやタクシーのヘッドにも。
これを見た人々に「最近このロゴあちこちでよく見るけどなに?」と思わせ、順を追ってだんだんファッションブランドだということがわかるように展開されていきます。あくまでもCOOLに。
これは、日本でユニクロは「しまむら」や「餃子の王将」などと並べられて「売上絶好調!」と、経済新聞の見出しに書かれてしまっているけれど、海外ではH&MやZARAと同じ仲間に見られるようになるための戦略なんだそうです。
学び1
「日本から来た安売りの店」ではすぐに飽きられてしまう。ブランディングは下から上には決して行かない。なので最初はぐんと高く置かなければならない。
さらに今は、ユニクロのロゴが表に入った服を着るなんてちょっとありえなかったけど、スポーツ選手(テニスの錦織選手など)のユニフォームに入れることでイメージを上げ、「カッコよく」着られるようにする戦略中だそうです。
また「ビックロ!」について。
これは家電量販店・ビックカメラとのコラボレーションですが、まずはこの「ビックロ!」という冗談みたいな名前のインパクト。コンテンツは変えなくてもコミュニケーションの仕方を変えることで新しい業態を作った例です。
日本では新店がオープンしてももう目新しさはないユニクロですが、これは充分に注目を集めオープン時には行列ができたそうです。私はまだ行ったことがないけど、確かにオープン前に話題になってましたね。
自分たちの「常識」はあまり知られていなかったりする
続いてはセブン&アイの話。
佐藤さんはお仕事を受けると、まずそのクライアントのトップの方とかなり時間を掛けてヒヤリングするそうです。ユニクロの柳井社長もそうだし、そしてセブン&アイの鈴木会長ともじっくりと話し合ったそうです。
その時すでにもうセブンイレブンはコンビニ業界では売上はNo.1だったにもかかわらず、鈴木会長はこう仰ったそうです。
「セブンイレブンの顧客は20?30代の男性がメインで女性や高齢者がなかなか取り込めていない。彼らを取り込めれば売上は倍になるはず!」
と!
すでに業界No.1でありながら、さらに倍という成長を考えている・・・これにとても驚いたそうです。さらに仕事を任された時の言葉は、
「ウチの会社良くしてください、以上!」
だったそうです(笑)
そんなわけでどこから手掛けようかと考え、改革したのはまず商品パッケージ。セブンプレミアムというPBブランドはあっても、当時はロゴの入れ方やパッケージに統一感がなくバラバラで展開されていました。
さらに、セブンイレブンではすでにおにぎりやサンドイッチは自社工場で全て作っているそうなんですが、佐藤さんは今までそれを「知らなかった」。地域ごとにそういう製造センターがあって、そこで他のお弁当メーカーやコンビニも一緒に作ってるんだと思ってた。
セブン&アイの人はそれを聞いて、自分たちが自社工場で作ってるということが知られていなくて驚いたんだそうです。
学び2
自分たちの「常識」は実は外ではあまり知られていなかったりする。あたりまえすぎているモノ・コトをもう一度見返して見ること。
これけっこうありますよね。あまりにも「当たり前にわかっているべきこと」すぎて、当然伝わってると思ってたら伝わってなかったということ。そこでまず、セブンプレミアム商品のパッケージの統一を計り、自社製品は自社工場で作られていることを明確にさせました。
さらに雑貨を中心としたライフスタイル提案、などなどを行なっていきます。
- 参考画像はこちらからどうぞ→?http://kashiwasato.com/#seven-eleven
たとえばプレミアムティッシュボックス。普通のティッシュボックスは競合する他社製品と並ぶため、目立たせるようにロゴを大きく入れてます。でもセブンオリジナルなら他の商品と置くことは少ないので、ロゴを小さくできる。シックでおしゃれな雑貨としてのティッシュボックスを売ることができる。
また、カラフルなカラーを揃えた折りたたみ傘を作って展開したら、コンビニで売ってる傘なんて今までは雨が降った日にしか売れなかったものが、晴れた日にも売れるようになったそうです。
「常識」や「あたりまえ」や「これでうまく行ってた」からもう一歩、「新しい目線」で自分たちの強みの部分を再認識し、お客さんにわかりやすく「変わったよ」「新しいよ」「これから自分たちはこういうのを目指していくよ」を伝えるということ。
そしてこの原動力はやはり、業界トップでありながらこれでよしとせず、さらなる成長を望む鈴木会長の「イノベーションの諦めなさ」であり、それがすごいのだと・・・ほんとそうですよね。
ひとつひとつの「こうあらねばならない的常識」を根本から見直す
最後は東京立川市の「ふじようちえん」の話です。
今は園児数500人もいる大型幼稚園だけど、今後は少子化で子どもの数が減っていくという危機感。建物も古くなり建て替えが必要、という状況からのリニューアルプロデュース依頼でした。
最初まずいつものように園長先生とのヒヤリングしたのですが、とにかくこの園長先生はアイデアがいっぱい出てくる「ひらめき型」。やりたいことが多すぎてまとめられない。今まであちこちにリニューアル計画をお願いしても途中でアイデア変更を繰り返してしまい、実現できなかったそうです。
佐藤さんも7時間(!)お話を聴いたそうで、それなのにオリエンテーションができない・・・そこで「先生の頭の中をまずデザインしましょう!」ということになったそうです(笑)
そしでまずは建物のリニューアルを。手がけられたのは建築家の手塚貴晴・手塚由比夫妻。去年NHKの「プロフェッショナル仕事の流儀」でも取り上げられていましたね。
この建物がとてもユニークなんです。
- 参考画像はこちらからご覧ください→?http://kashiwasato.com/#fuji_kindergarten
従来の幼稚園では見たことがない斬新さがたくさんありますが、これらはひとつひとつの「こうあらねばならない的常識」を根本から見直して作っていったそうです。
- 職員室いりますか?→書類を置く場所というより実は子どもと離れる場がほしい→ならいっそカフェにしては?
- 園服ってほんとにいりますか?→Tシャツでもいいじゃん→大人サイズを作ったら父兄にも大人気!
- 遊具たくさんいりますか?→屋上でかけっこ、降りるスロープが滑り台、大きな樹木はジャングルジム!
などなど。新しい発想が新しい習慣を生み新しい遊びにも!
学び・3
ほんとうにそれが必要か必要じゃないか、欲しいか欲しくないか、魅力的であるかないか、などを考え、整理し、すべてをトータルでデザインする
どうやったらクリエイティブで「問題解決」ができるかを考える
さて、これらの話を聴いてみての私の得た学びについて。
とにかく大きなお金を動かせてドリームチームのようなメンバーを集めて、世界最高のクオリティの仕事をするという壮大さに圧倒されまくりでしたが、それでもひとつひとつのクライアントが持つ「問題」への向き合い方は、私のような個人フリーランスでも同じなんだと感じました。
そんなわけで学びのキーワードを並べると、
ブランディングは下から上には決して行かない。なので最初はぐんと高く置かなければならない。
これはフリーランスである「自分自身のブランディング」をどう考えるか、という意味で考えさせられました。「セルフブランディング」とよく言われていますが、私はそれは自分を実力以上に見せるためのものではないと思っています。
自分がどういう人間で、どういう考えを持っていて、今までどういう仕事をしてきて、これからどういう仕事をしたいと思ってて、さらにどういう自分だけの「価値」を持っているか。
これらを「わかりやすく」かつ「魅力的に」相手に伝えること、こういうことだと考えています。
この「魅力的」とはウソで魅力的にするんじゃなくて、デザインで魅力的に見せるということです。
そうはいっても難しくて・・・なかなか自分のことって客観的には見れないものです。私はどちらかと言うと自信がなく「いえいえ私なんてそんな・・・」状態になりがちなんですが、それって謙虚ではなく結局自分をラクな方に置きたい弱い気持ちでもあるんですよね。
自分の価値を高く持ち、ふさわしいクオリティの仕事をする。目標をひとつ上に置く。そういう厳しさをもっと持っていきたいです。
自分たちの「常識」は実は外ではあまり知られていなかったりする。あたりまえすぎているモノ・コトをもう一度見返して見ること。
相手には伝わってる、知ってると思ってたことがそうではなかった・・・こういうことは多いです。
また、自分の弱点や短所。これらも相手とどうコミュニケーションするかの戦略次第で強みにひっくり返せる可能性があるということ。こういうことも「デザイン」なのだと。
自分では大してすごいと思ってなかった「経験」や、関係ないと思ってた「技術」、必要ないと思ってた「モノ」も、場所を変えればそれらが「すごい!」と言われることもある。
「誰に」と「どこで」を変えるだけで、同じものでもその価値は変わるということ。
そしてきちんと伝えること。
「言わなくてもわかってくれる」「察してくれるのを期待する」は、コミュニケーションの手抜きなんだと。わかるように伝わるように伝える手間(=デザイン)を惜しんではいけませんね。
ほんとうにそれが必要か必要じゃないか、欲しいか欲しくないか、魅力的であるかないか、などを考え、整理し、すべてをトータルでデザインする。
あたりまえのもの、昔から「そういうものだから」で存在してるものの価値を洗いなおしてみること・・・ほんとうに必要なのか??
「快適」であるかどうか・・・このことについて私は最近よく考えます。「ふつう」ではなく「快適」であるかどうか。
「快適」であるかどうかを判断するセンサーって、「不快」に我慢して慣れていくと失うんです。
快適センサーが鈍ると、過去からの事例やその時人気のものなどで価値を判断せざるを得なくなって、一貫性のないものがつぎはぎ的に足されていって、「デザイン」からどんどん遠くなっていってしまう。
あたりまえやふつうや常識の中で澱んでいる「問題たち」を解決するには、クリエイティブな目線が必要で、クリエイティブな目線を持つには「快適センサー」が常にビンビンに機能して無くてはならないということ。
そんなことをツラツラと時々ノートに書いていました。そして確かにそうだと強く感じることが出来ました。
紹介された事例の3人のトップの方たちはみんな「問題意識」を持っていて、それらを解決する佐藤可士和さんはそのひとつひとつを快適センサーで判断し、整理し、美しくデザインし、ブランディングしていく。一流のクリエイターとしてすばらしい「快適センサー」の持ち主なんだなと思います。
そんなわけで長くなりましたが感想終わりです。
まずは私の快適センサーが鈍らないよう、日々ノートとともにこれからも学びブログでアウトプットしつつ、またツラツラと考えて行きたいです。
おまけ
最後の質問コーナーで会場より、「ユニクロのださいセールチラシ」についてどうお考えか?という質問がありました。
佐藤さんの答えは、チラシにはチラシのコミュニケーションがある(チラシとは地域とコミュニケーションするもの)、でした。ブランドイメージを上げることと売上を上げることは必ずしも一致するものではない。今はチラシというコミュニケーションはまだまだ有効である。しかし今後は変わっていくかもしれない、とのこと。
やはりあのチラシは戦略的チラシでしたね^^
参考記事
以前書いたユニクロのチラシについての記事→「私だったらイヤ」から一歩抜け出すことへの気づき。