【読書】骸骨ビルの庭(上・下)宮本輝 | Rucca*Lusikka

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年頭に、「今年はたくさんの小説を読むぞ」という目標を立てました。

仕事に必要な本や、情報収集のための本などはこの数年かなり読んできたほうなのですが、小説はほとんどといっていいくらい読めて来なかった。小説をたくさん読んでいた頃には、心のなかに湖のようなものがあったのに、だんだんそれが枯れて行ってる気がする。そのことを感じることが多くなったのです。

もう一つは、本をものすごく読んでいる人に圧倒されることが多いこと。本を読んでいる人の話は間違いなく「おもしろい」こと。

胸に千巻の書あれば、語を下す自ずから来歴あり

私の好きなこの言葉、出会う人からこれを実感することが本当に多くなったのです。

さしあたって、仕事などに必要な「読まなくてはいけない」「読むべき」本はまだまだたくさんあるのですが、それらは「知識」や「新しい発見」にはなるんだけど、心のなかの湖の底には沈まない。やはり「小説」が読みたいのです。いい小説が。

そんな折、私の大好きな作家の宮本輝先生の「骸骨ビルの庭」という小説が、ちょうど文庫化されて本屋さんに並んでいたので購入しました。これはまだ未読でした。

お話は、大阪の十三という街にある、「骸骨ビル」と呼ばれる戦前からある古いビルを舞台に始まります。

主人公の八木沢は不動産会社に勤めていて、取り壊しが決まった大阪・十三にある「骸骨ビル」と呼ばれる戦前からある古いビルの住民たちを、期限までに問題なく退去させるべく交渉をするための仕事で骸骨ビルにやってくる。

その古いビルに住んでいたのは、このビルの亡きオーナーの親友と、彼らにここで育てられていたかつての戦災孤児たちだった。

ビルの現在の居住者たちは立ち退きには同意しているのに、立ち退きの交渉にあたった担当者たちは、明確な理由を告げずなぜか皆「その任は重すぎる」といって任務を降りてしまい、住民たちは依然住み続けている。そして八木沢が3人目の担当者になるのだった。

「私がその風変わりなビルの管理人としてすごしたのはわずか三ヶ月あまりの期間に過ぎません。」

「骸骨ビルの庭」より引用

という冒頭文から物語は始まります。

小説のはじめ部分は、主人公の八木沢が骸骨ビルにいた頃から10年余が過ぎていて、その頃を回顧し手記を付ける形で始まります。その3ページ弱の序文にまず引きこまれました。。。圧倒的な文章の力、輝先生はやはりすごい。。。

物語は、ミステリーな雰囲気をまといながら、ビルの居住者であるかつての戦災孤児たちが自分の過去を八木沢に語る言葉で進んでいきます。それぞれの今の仕事、骸骨ビルにやってきた経緯、子供の頃の思い出、そして若くしてこの戦災孤児たちを育てようと決意したこのビルの亡きオーナーである阿部轍正という人物について、その阿部轍正の晩年に襲った信じがたい不名誉と無念の死について。

焼け野原になった大阪で、戦地から復員した阿部轍正は親友の茂木泰造とともに、ここで多くの戦災孤児たちを育てた。

孤児たちはそれぞれに親に捨てられたという心の闇を抱えながら、ここで育っていく。大人になっても育ての親である二人への感謝を忘れない子(といってももう大人)もいれば、忘れないけど信じきれなく、忘れない子たちと今ひとつ心をひとつにできない子、出て行ったあとは消息不明の子、飛び出して行ってしまった子、勘当されたけど常に骸骨ビルの恩人を見守っている子、

そして、信じがたい不名誉を大恩人にかけ裏切った子・・・。

骸骨ビルオーナーの若き阿部轍正は、なぜこの孤児たちを育てようと決意したのか。彼と共に孤児たちの親代わりとなった親友の茂木泰造は、何を待って今、ここを出ていこうとしないのか。

たくさんの登場人物、それぞれの性質、出来事、それらが複雑にからみ合って物語が進んでいきます。その織り目織り目の重なり加減がなんていうかもう、すごい・・・(表現力の低さに自分でも嫌になりますが)

そして物語に沈められた、たくさんの「生きる希望」とか「人間の不思議」とか、「使命」「歓び」「魂魄」「報恩」などなどの、生きるヒントというか、智慧というか。。

これは本当に「大人が読むべき小説」だな、と。大人の小説です、間違いなく。

(精神が)子どもでは多分物語の奥底までは届かない。ただ子どもでも読める文章で書かれているしストーリーだけでもおもしろく読める。だから最初読んでそのままになっても、ある一定の時期がきた時にさらにわかる、そんな小説だと思う。

また、そういう所が輝先生の小説の一番すごいところだとも思う。何度も何度も同じ本を読ませられる。読むたびに新しい発見や気づきがある。読むほどに心のなかの湖に水がたまっていく。

最近は読書に付箋を用意しているのですが、付箋を貼った所がたくさん。幾つか紹介します。

そんな簡単なことが六十一歳になるまでなぜわからなかったのか。私にそれを教えてくれる師がいなかったからだ。

優れた師を持たない人生には無為な徒労が待っている。なぜなら、絶えず揺れ動く我侭で横着で臆病で傲慢な我が心を師とするしかないからだ。

人間が抱く嫉妬のなかでもっとも暗くて陰湿なのは、対象となる人間の正しさや立派さに対してなの。あなたも、そういう種類の嫉妬を知らず知らずのうちに抱くようになる年齢に、いよいよこれから入っていくわ。

最大の恩人に対して嫉妬の心を起こさせようとする何か大きな力が牙を研いで待っているのよ。これは嫉妬だって決してわからせない形で、それはあなたを待ち受けているのよ。この私の言葉を忘れないようにね

私が畑仕事で知ったことは、どんなものでも手間暇をかけていないものはたちまちメッキが剥げるってことと、一日は二十四時間がたたないと一日にならないってことよ。その一日が十回重なって十日になり、十日が十回重なって百日になる。これだけは、どんなことをしても早めることができない。

これまでも幾度か、決意を不動にしたかに思える瞬間はあった。それらはそのたびごとに嘘ではなかった。だが、人間は変われない生き物なのだ。自分の人生を決める覚悟は、一度や二度での決意では定まり切れるものではない。何度も何度も、これでもかこれでもかと教えられ、叱咤され、励まされ、荒々しい力で原点に引きずり戻され、そのたびに決意を新たにしつづけて、やっと人間は自分の根底を変えていくことができるのだと思う。

「骸骨ビルの庭」より引用

またこれからも折にふれて、何度も読み返す小説になりそうです。

骸骨ビルの庭(上) (講談社文庫)

骸骨ビルの庭(上) (講談社文庫)
骸骨ビルの庭(下) (講談社文庫)
骸骨ビルの庭(下) (講談社文庫)

 

 

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