水曜の朝、午前三時~罰を受け入れるという想いの貫き方 | Rucca*Lusikka

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そんなわけでもう3月!!早いですね~・・・そして暖かい!!昨日の風で飛ばされたベランダのバケツの行方が気になって仕方がない午後であります。

さてさて、そんな毎日ですが順調に読書は続いております。感想をアップしようと思うとなかなか時間がかかるので溜まってしまってますが・・・ちゃんと読んだものに自分なりの感想をつけておこうというのが目標なので、ガンバッテいきます!

今回読了したのは、蓮見圭一さんの小説「水曜の朝、午前三時」

この物語は、余命半年といわれた45歳の女性が、娘にあてて吹き込んだ4本のカセットテープの内容、という設定になっています。

主人公の直美は、A級戦犯で処刑された祖父を持つ家に生まれます。そんな複雑な暗さのある家でしたが、両親は共に考え方は古風ながら善良で優しい人で、一人娘の彼女を大切に育ててきました。

男に生まれてれば、と、親も自分も思うほど才気煥発な直美は、大学卒業後、そのまま親の決めた許婚と結婚するのを拒み、両親の大反対を押し切って、当時開催された大阪万博のコンパニオンになって家を出ます。

そこで運命の恋人、臼井と出会い、お互いに惹かれあい大恋愛をするのです。

死の床で45歳の彼女は、そんな若い日の自分を振り返りながら、自分の娘へのメッセージをカセットに吹き込んでいます。

ある日、がんセンターで仲良くなった患者達との交流の中、子供を亡くした若い母親を慰める為に、直美は彼女に「また子供を作りなさい」と言ったら意外な答えが返ってきたといいます。

「もう作らないわ。私思い当たることがあるの。私本当は悪い女なの。きっと罰が当たったんだわ。」

直美は母親のその言葉を聞いて、自分も自分の病を知った時同じことを考えていたので驚くのです。半年の命と診断され、自らを悲しむと同時に・・・どこかで安堵していたのだと。

大阪万博のコンパニオンとなって家を出た23歳の直美に、未来は輝くものであり恐れはなにもなかった。彼女は自分の知性と美貌に自信があったし、生まれにも育ちにも引け目や負い目を感じる必要がなかった。

そんな彼女が惹かれた臼井という男も、長身で人目を惹きつける外見と、静かなただずまいと、少し謎めいた雰囲気を持つ魅力的でなおかつ、周りから一目置かれる優秀な男でした。(直美は彼をスナフキンみたいな人だ、と思う)

直美は彼に興味を持ち、彼をもっと知りたいと思い、まっすぐに彼にぶつかっていく。

『何百万人もの中から、自分にふさわしいたった一人だけの人を見つけた。不意にそう思い当たり、どうしようもなく泣けてきた。これは何かの間違いか、そうでなければ奇跡だと思った』

この直美のまっすぐさは本当に魅力的です。

そして臼井と交際が始まり、自分と同じ年の彼の妹とも意気投合し親友になります。

そして大阪万博が終わっても自分は東京には帰らない、彼と結婚する、と、直美は許婚との婚約解消を両親に訴えて激怒されます。でも直美は一歩も引く気はありません。

そのくらい情熱的で、まっすぐで、一途に彼を思い、親がどんなに反対してもこの人との愛を貫く!という姿勢だった直美が、彼の出自にまつわる『ある事実』を知った途端・・・急に彼から逃げるようにして東京へ帰り、短い手紙だけで一方的に交際を終わらせ、両親のすすめる相手と見合いをして、その後すぐに結婚してしまうのです。

 

え??直美どうした??なんで??

 

この直美の心変わり・・・これは70年代という時代のせいかもしれないし、A級戦犯を祖父に持つという彼女の育った家庭の影響もあったかもしれない。彼女は賢くて先進的な女ではあったけど、やはりどうしようもなくお嬢さんで、両親の手の中から抜け出せなかったのかもしれない。

その後、臼井の妹が直美に会いに上京するけど、直美はまともに向き合うこともできない。直美の母は娘のこの変化の理由を全く知らなかったけど、直美を部屋に帰し、母ひとりで妹と長く話し合い、全ての事情を飲み込みます。そこには『ある差別』があったのでした。

母は妹を帰し、直美に『もう全部済んだから安心おし』といいます。

大正生まれの母は疑いもなく善意の人でした。
しかし、その母でさえ、差別も病気の一種であるということには敢えて気づかない振りをしていたのです。
人類の進歩と調和―――なんて嘘っぱちで皮肉な半年間だったでしょう

45歳の直美はそう振り返ります。

この直美の変化が私には解らない。私のように幼い頃から少女マンガを愛読していた女子としては、つい『愛で乗り越えられないものは何もない』と思ってしまいます。

両親が反対しようが、親の仇だろうが、年の差があろうが、身分の差があろうが、異教徒であろうが、敵国の人間であろうが・・・愛で乗り越えられないものはないはず・・・ナノデス!!

なので例えばだけど、『彼が一流企業を辞めたから別れた』なんて話を聞くと

シンジランナーーーーイ!!

と私は内心思うのです。『愛と結婚は全く別物よ』という意見にも、

しんじらんなーーーーい!!

なのです。わりとまぢで。

三十路過ぎてもそんな事言える私は、もしかしたらつくづくおめでたく仕合わせなのかもしれません。『差別』というのもあまり身近に感じたこともなく、ずっと大人になってから会社の人権研修でそういうことが今でもあることを知ったくらいでしたから。。。

さて、物語は続き、直美はお見合いして結婚し娘を授かるのです。彼女はその後才能を生かし、翻訳家・詩人となり著書も何冊か出す作家となります。

彼女の告白テープは、自分の若い日の心変わりについて弁解めいたことを語りません。そして夫を愛し、娘を愛し・・・でも運命の人である臼井を愛することもやめなかったのです。

私がこのあたりまで読んで、それでも直美という人に嫌悪感を持たなかったのは、

彼女がいつもまっすぐで、自分の過ちにも弁解も言い訳もしないで、また、罪は持ちながらも、自分を悪者にして自虐することもせず、自分に正直に生きてきていたからだと思うのです。

彼女がなぜ、娘にそんなテープを残したのか・・・この内容は娘だけでなく彼女の夫を傷つけるという想像ができないのか?

しかしそんな疑問もすべてここまでで分かった彼女の人間性が打ち消してしまう、死を前にした彼女の、臼井への思い、最後はちょっと可愛くて、きっと彼女の夫も直美らしい、といって苦笑いした後にお酒を飲むのかな、って感じました。

半年の命と宣告されて、悲しみにくれながらも心のどこかで『安堵』も感じたという直美、そういう彼女の正直さ、まっすぐさはやはりとても魅力的だなと思いました。

正直、一回目読んだときはなかなかしっくりと来なかったんだけど、二回目読んだらうまく心におさまった感じ?・・・いい小説が読めました。

「水曜の朝、午前三時」はサイモン&ガーファンクルの曲のタイトルにもありますね。あとがきを見て思い出しました。

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