「この世界の片隅に」と「カーネーション」とを結ぶ水玉の服 | Rucca*Lusikka

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もうすでにこの映画については素晴らしい考察の記事も多く出ているので今さらとも思ったけど、やはり自分の言葉でブログに残しておきたいなと思った。

先日、二回目の「この世界の片隅に」を観てきました。

 

去年、公開後わりとすぐに見に行ったのだけどずっと感想を言葉にできずにいた。とても感動したのだけどどうそれを表現したらいいのかよくわからなくて。

そしていろんな人の感想などを読むにつれ、なるほどなぁと新しい発見がありつつも、自分が感じた気持ちがその人の感想をなぞったものになってしまいそうで。

でも二回目を見て思った。

やっぱり書いておこう。この映画(&マンガ)の自分がすごく好きだと思ったところをただもう書いておこう。

そう思った。なので鑑賞後の感情が残っているうちにダダダーっと書いていきます。内容ネタバレ含みますので未見の人は注意して下さい。

この世界の片隅にの、ここが、すごく、好きだ!

会ったこともない人のところへ嫁に行きそこで生きていく姿

18歳でほとんど会ったこともない人と結婚し、その家で嫁として暮らす…これ、今じゃもうありえないことだと思う。

でもこの時代にはよくあることだったんでしょう。すずさんの親もすずさん自身も「特に断る理由がない」ということでこの縁談を受けます。

相手の周作さんはかつて出逢ったすずさんを覚えていて、好感を持てていたからこその縁談の申し出だったのでいちおう周作さん側にすずさんへの愛情はあるし、北條家の人はお父さんも周作さんも軍属の仕事に就いていて徴兵される心配も少なく、すずさん親からしたら「ボーっとした長女だけどよいお家に片付いてくれてよかった」ということだったかもしれない。

すずさんも抵抗せずあたりまえに嫁に行く。そして嫁としての家事をこなしながら、ちょっとあたりのキツイ小姑の出戻りという想定外のことはあったけど、それでもあたりまえに(戦時下の生活ではあるが)日々をおくる。

ところがしばらくして里帰りした時に、妹から頭にハゲができていることを知らされる。

住所も覚えてないことにも気づかないままその家に入り、翌日からその家の台所でヨメとしての家事労働をしていく中で、ぼーっとしてるすずさんでもしらずしらずストレスがあったんだなあと、すずさん自身も、見ていた私たちもそこで気づくような描写がいい。

(C) こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

物語の後半、戦争で大切なものを失ったすずさんは、北條家の中に自分がいる理由や居場所に悩むけれど、すずさんがそこであれほど悩むのは、その時もうすずさんの「居場所」はこの家になっていて、だからこそ、「なりゆき」への悲しさと憤りだったのかなあと。

しかし北條家のひとたちがみんな良い人だったという幸いはあるけれど、運命に逆らわず、置かれた環境の中でカタチに自分を合わせながら生きることが「昔の日本の女」のあたりまえだった時代って、なんて理不尽なんだろう!

と思いつつもその生き方から少し、昔の女の「幸せへの知恵」というか「コツ」というか、嫁という(待遇が良いとはいえない)与えられた「居場所」から、なにか幸せを見つけていくしたたかな力というのか。

運命という風に飛ばされながらも、降り立ったその地を疑わずに根を張って生きていくたんぽぽのような強さ。

そういうのをすずさんが北條家の家族になっていく姿を見て感じたのでした。

 

ちょっと怖い径子さんがいい

そんなふうに北條家にやってきたすずさんとは逆に、仕事も結婚も全て自分で決めて、さらに自分の意志で実家に帰って来たのが周作さんの姉の径子さん。

旦那さんに先立たれ、建物疎開でお店を失い、長男を婚家に取られ、さらに幼い娘を戦争で失った径子さん。しかし径子さんは「自分が全部選んできたことだから不幸ではない」ときっぱり言う。現代の人間としてはすずさんよりも径子さんの気持ちのほうがその辺理解しやすい。

娘の晴美さんがすずさんと一緒に居た時に時限爆弾の爆発で亡くなったため、径子さんは悲しみや怒りを抑えきれずすずさんに当たる。

この径子さんは登場時からどこかおっかない人で、ぼーっとしてるすずさんにイライラするのか、言うことがきつく「意地悪な小姑」と思ってしまうんだけど、裏表のないキッパリとした人でもあって、決して陰湿な「いけず」とは違うんだよね。

晴美さんのことと、右手を失い家事が満足にできなくなったことで北條家での自分の居場所を見失い実家に帰ろうとするすずさんに、「あんたの居場所はここだ」とキッパリ言ってくれたのも径子さん。

夫の周作さんに「すずさんの居場所はここじゃ」と言われても気持ちは揺らがなかったのに、径子さんに言ってもらえてすずさんは再び北條家に居場所を見つけることができた。

正反対のふたりだけど、家族として、姉と妹としての絆がここで生まれたんだなあと思って嬉しく感じたのでした。

 

晴美さんが「普通のこども」なところがいい

(C) こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

どうもアニメに出てくる子どもというのは、となりのトトロに出てくる姉のようなしっかり者か、妹のようなやんちゃ者かどちらかのタイプになりがちなんだけど、この世界〜に出てくる晴美さんはほんとうにふつ〜〜〜の子どもだ。

特に美少女でもない、特別賢そうでもない、おてんばでもない、しっかりものでもない、大人に向かって生意気な口を利くわけでもない、ヘンに鋭いことを言ったりもしない。

すずさんとは仲良しだけど、あくまでもその関係はおとなのお姉さんとこどもであって、友情というようなものではない。

水原さんはすずのことを「お前は本当に普通だな」というけれど、すずさんのぼーっとしたところや絵がうまいところはあまり「普通」ではない。

でも晴美さんは本当に普通なのだ。

ニコニコ笑って穏やかな性格の普通の6歳の女の子。お兄さんが教えてくれた軍艦の名前をおそらく一生懸命覚えて、お兄さんが大好きで、でもそのお兄さんと離れて暮らさなくてはならなくなって、次にお兄さんに会えるのを楽しみにしている女の子。

だからこそいじらしく、この子を失った悲しみは大きい。

2回目に見て実はいちばん印象的だったのがこの晴美さんだった。どこにでもいる普通の女の子。だからこそ自分の娘かもしれない、姪かもしれない、妹かもしれない。孫かもしれない。

晴美さんが特徴的なステレオタイプな子どもに描かれてないところがすごくいいと思った。

 

エンディングのエンドロールがいい

最初に見たときも思ったけどエンディングがとってもいい。映画が終わってすぐ席を立ってしまった人!もったいない!

エンドロールはふたつあって、最初は広島から連れて帰ってきた戦争孤児の女の子とすずさんと径子さんが新しい服を仕立てている様子のイラストが入ってるんだけど、ここのカット絵がすべていいのだ。

ちょっと小奇麗になった女の子が着ている服が晴美さんの服で、肩ひもとスカートの裾に生地を足して、晴美さんより少し年長らしい女の子のサイズに合わせて直してる描写がいい。

ピンク地に白い大きな水玉の布地ですずさんたちがなにやら服を縫っている。できたワンピースを元・モガでおしゃれな径子さんが着ている。そして同じ水玉の布地をあしらった新しい服をすずさんも女の子も着ている。

水玉模様の服を着た3人が描かれたカットに、これからの希望が見えたようでとても良かった。

これを見て、私は朝ドラの「カーネーション」を思い出した。

(C) こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

カーネーションは私は大好きでドハマりして見ていたドラマ。

特に戦時中はモンペだった女たちが戦後おしゃれを取り戻していく描写が素晴らしくて、そういえば着物をモンペに仕立て直すシーンのところもカーネーションを思い出したし、最後のエンディングでつくっていた新しいワンピースが水玉模様だったのもカーネーションを思い出した。

そうだ、終戦前の日々の描写も。

毎日のように空襲警報がなり満足に夜も眠れず、昼間はひたすら防火訓練と山に疎開してる家族への食料の運送の繰り返しで身も心も消耗し、幼馴染たちの戦死の知らせが届き、ついには夫の戦死の知らせが届くのだけど消耗しきっていて泣くこともできない。玉音放送も呆然としたまま聞き戦争が終わったと知って

「・・・お昼にしよか」

って言うんだよね・・・あのシーン。

ヒロインの糸子がやっと泣けたのは、戦後の厳しい暮らしの中で娘たちが集めてくれた赤い花びらを手にした時。

径子さんの涙、すずさんの涙、糸子の涙、みんな同じ涙だった。

そこから新しい服を作って元気になっていく姿が、カーネーションのそれと重なって思い出しとてもよかった。

2回めもおすすめしたい映画です

(C) こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

もちろん他にも、のんさんの声の演技もいいし、戦争をステレオタイプに描かなかったところもいいし、呉の風景もいいし、鬼イチャンという不思議な?兄の存在もいいし、エンドロール2に描かれていたリンさんのお話もよかった(リンさんについては完全版でまた見たい!)

私は映画を見たあとで原作の漫画を読んだので、最初見た時に???と思った口紅のところも2回めに見て補完できてよかった。

これからももっと多くのスクリーンで上映してほしいし、まだの人には強くおすすめしたい映画だけど、このブログがすでに見た人にももう一度見たいと思うきっかけになったらうれしいです。

ではでは。

*この記事内の画像はこの世界の片隅に : 作品情報 – 映画.comサイト様から引用させていただきました。

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