先日、NHKのTV番組、「プロフェッショナル 仕事の流儀」を観ました。その日のゲストは血管外科医の大木隆生先生という方でした。
大動脈瘤などの血管病の外科手術のスペシャリストだそうです。
去年亡くなった私の父が最初に患ったのが腹部大動脈瘤でした。
大木先生はさらに難しいという、胸腹部大動脈瘤の外科手術における第一人者だそうです。テレビを見ててもまさに神業・・・ゴッドハンドでした。外科医ってすごいよなぁ・・・頭がいいだけじゃなくて手先が絶対的に器用じゃないといけないんだもの。
そしてもう本当に、「この仕事を天職」と思って働いている方なんだなぁというのが伝わりました。あれだけの大手術を週4回もこなしてるそうです。その他の日だって往診や勉強や雑務などあると思う。。。いつ休んでるんだろう?本当の意味で「休んで」なんていないのかもしれない。
父の執刀医だった先生も、血管手術ではかなり評判のよい方でした。実際そうでした。見た目ちょっと世間離れしてるというか、いかにも学者肌というか、飄々とした面白い方でしたが^^;、この先生も本当に、いつお会いしても手術着というか・・・父の大手術のあとも「明日もこの手術です?」と疲労困憊なお顔で笑っていました。
こういう高い志を持って、休みなく働かれている方のモチベーションっていうのはなんなんだろう?
絶対に「高収入だから」とか「休みが取りやすい」とか「将来性があるから」とかじゃないよね。
大木先生は「プロフェッショナルとは?」との問いかけにこう答えていました。
「経済的動機付けではなく、使命感ややりがいをその原動力として事に当たる。それでいて、自己の利害、ときには命もかえりみない、いわば、アマチュアリズムの極致がプロフェッショナルではないでしょうか」
この番組で取り上げられる方はどの方も、プロとして「私」までもがプロだよなぁって思う。半分もう、世の中のためとか平和のためとか、そういうものに自分を捧げてしまっている。誰もが出来る生き方じゃないけど、そういう使命感で働けることって幸せなんだろうな。
ちょっと心に残ったエピソードが番組の中にありました。
84歳のおばあさんが先生の手術を受けることになりました。84歳という高齢に加え、もともと心臓の弱い方で、さらに動脈瘤の位置もよくないということで、かなり危険な手術になるそうです。
おばあさんは、腎臓が悪いだんなさんの面倒を見なくちゃいけないから!と、手術を受ける決意をしたそうです。お父さんのために良くならないと!って。
72歳で人一倍体が頑丈だった私の父の時でも12時間にも及ぶ手術だったのですよ。体に後遺症も残ります。落ちた体力もすぐには戻りませんでした。それを84歳のおばあさんがうけるなんて!!???
と、まず思っちゃいました。
大動脈瘤って、本人は痛くもなんともないんです。ただ体の中に時限爆弾が入っているのと同じで、破裂したらもう最後。手術をしなければやがて来る破裂を待つしかもうないんです。
非常に難しい手術でしたが手術は成功しました。麻酔からさめたおばあさんは「これでお父さんの所に帰れるね」と言ってました。
でもその後、合併症を起こしてしまいおばあさんは亡くなってしまいました。
大木先生は今まで手術で一度も失敗したことはないそうです。今回の手術も手術自体は成功でした。相当ショックだった様子もテレビは映していました。そこをね、カットさせずに流したのもすごいなって思った。だってこの先生にとってははじめての「手術後の患者死亡」だったわけで・・・。
その後、おばあさんの娘さんが先生に挨拶にこられて、母は悔いなく満足だったと思う、みたいなことを仰っていました。
おばあさんがなくなられたことは残念だけど、それでも新しい患者さんは先生の手術を待っている。それで助かる人がこれからも何人もいる。
父も、手術は成功してリハビリも順調だったのに、その一年後に、現在の医学ではもうどうしようもない絶望的な病に突然かかり亡くなってしまった。
なんか不思議というか皮肉というか、うまくいえないけど。人間が治せる病気なら治せるけど、だからってその人の寿命はそれとは別のところにある。
生きていて欲しいと願ってくれる人がいて、生きたいと思う気持ちがあって、だから戦ってみる。
困難な手術、高額な治療、元にはもう戻れないなら、今やりたいことをしたい。
どんな姿になってもいい、ただ生きていてくれるだけでいい。
延命はさせたくない。こんなに辛そうな姿は見ていられない。自然に任せて早く楽にしてあげたい。
どれも全部正しいんだと思う。選ぶのはその人本人と家族だよね。ほんとうにこの辺の考え方は本当に人それぞれだから。・・・なんか思い出しちゃった。
この辺の感情はまだちょっとなまなましくて、まだ消化しきれてないみたい。
ただなんか、この、生きたいと思ったおばあさんの思いがね、なんかいろいろ考えさせられる。
おばあさんもきっと、元気になって、だんなさんのそばに帰らなくちゃ!という「使命」があったからなんでしょうね。