連日、オリンピックの話題が上がる今日このごろ。大会前半の水泳・柔道でメダルラッシュもあって、日本選手の好成績が続いていますね。
運動会にも球技大会にもろくな想い出がない私のような人種には、汗を流し逆境に耐え、鋭く技を磨き栄光を勝ち取る選手たちの姿は眩しいばかりだ。この4年間どれほど努力したんだろう、どうしてそこまでの努力ができるのだろう。
今回のオリンピックも、時間が合う競技だけ観るというユル観戦で「がんばれニッポン」をやってる私ですが、今回のオリンピックでは今まであまり感じなかったある「思い」が抑えきれない。それは「ベテラン」と呼ばれる選手たちに対してだ。
スポーツ選手の競技寿命は年々伸びていってると思う。競技によって差はあっても、ひと昔前は20代半ばで引退する選手が多かった。しかし今は30代のメダリストもたくさんいる。それだけ選手のトレーニング方法が進化してるのだろう。昔のようにとにかく練習練習また練習ではなく、適度に休暇を取るとか、食事に気をつけるとか、メンタルコーチをつけるとか。
今までの経験、逆境に耐える精神力、勝負どころを見極める勘、相手との駆け引き、などは選手がベテランになればなるほど磨かれていく。しかしやはり肉体的なピークは年齢とともに落ちていく。しかしその選手がこれまでに作り上げた「絶対的な個性」が、そのバランスを絶妙に支配し美しい形に昇華させていく姿を今回、何度見ただろう??
若さと才能の輝きだけで取る勝利とはまた違う、スポーツを通じて見る「人間」の美しさのようなもの。それは勝利の姿だけでなく敗れた姿でも美しいなぁと。
「選手」のその上にある境地
福原「夢なんじゃないかと」 卓球女子、そろって会見 https://t.co/T1LvKQwy7m
— 朝日新聞(asahi shimbun) (@asahi) 2016年8月17日
私は今回、卓球の福原愛選手にそれを見た気がする。
福原選手は卓球界だけでなく、日本の「アイドル」であり「スター」だった。小さい頃からその可愛らしい容姿と泣き顔は多くの人に愛されて、「オリンピックの愛ちゃん」には日本中が「親戚のおじさん・おばさん」になって応援していた。
前回のロンドン・オリンピックで、平野早矢香選手、石川佳純選手とともに団体で初の銀メダルを取ったとき、日本中が喜んだし、3人娘の仲の良さ、チームワークの良さを讃えていた。
平野選手が引退し、15歳の伊藤美誠選手が新たに代表入りし、福原選手がチームキャプテンとして迎えた今回のオリンピック。
個人戦ではエースの石川選手が足のアクシデントでまさかの初戦敗退。しかし福原選手は準々決勝まではワンセットも落とさない快進撃だった。コメントでも勝っていることに浮かれず、笑顔も少なく、常に冷静で怖いくらいの気迫があった。
しかし準決勝であたった中国選手に「全く歯がたたない」形で敗れた。ミスをしたとか作戦がうまくいかなかったとかではなく、素人の私が見ても「歯がたたない」負け方だった。中国選手の強さにただただ圧倒、というか。そして銅メダルをかけた3位決定戦でも北朝鮮の選手に敗れてしまった。
「相手が最後の一球は(運が)ついていたかなと思うけれど、いきなりあのエッジで終わったわけではなくて、その前にたくさんの積み重ねがあった。序盤にもっとリードできたら良かったと思う」
あと一歩でメダル逃した卓球・福原愛 失望の大きさに比例した手ごたえ(平野貴也) – リオオリンピック特集 – Yahoo! JAPANより引用
試合後のインタビューで、福原選手は涙を見せることもなく「団体戦に向けて気持ちを切り替えて頑張ります」といった。
インタビュアーが「今まで4年間頑張ってきたことに対しての思いを聞かせてください」的なことを言った(正確じゃないかもしれないけどそういうニュアンスの内容)。その時の福原選手の答えがすごく印象的だった。
「思いとか、そういう無駄なものはすべて捨てて行きます」と。
なんかもう、とにかくかっこよかった。そして、そこにいるのはみんなが知ってる「愛ちゃん」ではなかった。
キャプテンとしての福原愛
団体戦も準決勝まで勝ち進み、当たった相手はドイツだった。勝てばロンドンと同じ銀メダル以上が確定。
第1試合は伊藤美誠選手がフルセットまで持って行ったけど最後、9-3でリードしながら7連続失点という後味の悪い負け方になる。しかし第2試合は石川佳純選手が2セット先取されながらも3セット取り返し逆転勝利!で良い流れへ。
そして第3試合、福原・伊藤のダブルス。これもフルセットまでもつれたけど第5ゲームを落としてしまう。しかし第4試合、石川佳純選手がまたも流れを変え3セット全て勝利!そして運命の第5試合、キャプテン福原愛選手に勝敗が託される。
この試合でも実力は伯仲し第5ゲームまでもつれ込む。しかし福原選手が6連続でポイントを取りこのままいくか?と思ったんだけど、その後続くラリーで少し焦りが見え始め、最後はあの無情なエッジボールであっけなく勝敗が着いてしまった・・・。
またエッジボールだった。どこまでツイてないのか、それともそれが「実力」なんだろうか。
呆然として敗北を認められない福原選手。でも判定は覆されずドイツの勝利。日本の銀メダル以上はここで消えてしまった。
試合後のインタビューで、初戦の逆転負けとダブルスでのミスがあった伊藤美誠選手は「自分のミスで・・・」とインタビューで悔しそうに語った。しかし福原選手は目を赤くさせながらもキリッと前を向いて「すべての敗因は私にある」と言いきって若い伊藤選手をかばった。涙はこぼさなかった。
そして団体戦銅メダルをかけた最後のシンガポール戦、第1ゲームを福原選手は2-3で落としてしまう。しかし相手のエースとの対戦を自ら志願した、日本のエース石川佳純選手が期待に応えきっちりと3-0で勝利。そして第3ゲーム、福原・伊藤でのダブルス。
前回ミスが見られた伊藤美誠選手が今回はのびのびと随所で好プレイし、シンガポールペアに3-1で大きな勝利!
そして第4試合はダブルスから連戦の伊藤美誠選手が出場し、ダブルスでの勝利の勢いそのままに相手のエースを圧倒。このプレッシャーの中なんとストレートで勝ちで、ついに日本女子団体銅メダルを獲得!
いやすごかった。そしてやっと、やっと、やっと泣いた福原愛選手の姿に私も涙が止まらなかった。
「きっと佳純が勝ってくれる」という期待を、絶対エースとしてきっちり果たした石川佳純選手、そして15歳とは思えない強心臓でのびのびと自分のプレイが出来た伊藤美誠選手。どちらもほんとうに素晴らしかった。
しかし、この2人にどこまでも自分の仕事をさせたのが、福原愛選手の「キャプテン力」だった。どれだけの重荷を背負っていたんだろう。今大会通して、福原選手はどの試合の後のコメントも全て冷静で、気迫に満ちていて、前向きだった。それは福原愛という個人選手としてではなく、チームキャプテンとしての姿だった。
これまでの五輪のなかで一番苦しい4年間、一番苦しい五輪でした。今回は最年長、キャプテンということで、負けても勝っても私が動じたらダメだと毎日強く思っていたので、絶対に泣かないって頑張っていたんですけど、最後勝って、我慢できなかったです。
福原「やはり神様はいるんだな」 銅メダル・卓球女子代表のコメント(スポーツナビ) – リオオリンピック特集 – Yahoo! JAPANより引用
ベテラン選手の持つ輝き
【銅メダル】卓球女子団体の #伊藤美誠 「この3人でメダルを取れてうれしいです」https://t.co/pu28Tw0GCB
— ハフィントンポスト日本版 (@HuffPostJapan) 2016年8月17日
福原選手は幼い頃から注目されていて、でもそれはスポーツ選手としてというよりは子役的な人気で、そういう人気先行になってしまうと、両親が不和になったり、本人が思春期を迎えてから競技への情熱を失うことも多いだろうけど、福原選手は中国に留学するなど卓球へ情熱は変わらず3度のオリンピック出場となった。
中国でも絶大な人気で、それは可愛らしい容姿だけでなく、本人のどこまでも真摯な姿勢が卓球王国の中国で認められ愛されたのだと思う。
前回のロンドンでは平野さんがキャプテンとして福原・石川両選手を引っ張っていた姿を私はすごく良く覚えている。ランキングでは2人にはかなわなく、出場機会もほぼダブルスだけだった。マスコミの注目が福原選手に集中する中で、それでも一番声を出し、励まし、試合での気迫は誰よりも強く熱かった。銀メダルが決まった時に泣き崩れていた平野選手、卓球女子のチームの強さは素晴らしいキャプテンがいることなんだね。
しかしリオは、次の東京への良い流れをつくるという意味もありロンドン以上のプレッシャーだったと思う。頑張ったなぁ。という思いはやはり小さい頃から知ってる「泣き虫愛ちゃん」だからかな。
今回、福原選手は「選手」として「最高」には輝けなかった(いやそれでも十分強いんだけど)
でもいつの時よりも強く魅力的だった。偉大なキャプテンだった。
福原選手だけでなく、水泳の松田選手も、体操の内村選手も、もう引退されたけど女子サッカーの澤さんも、ベテランとして、選手としての役割以上の役が与えられるというのは、本人にとってはさらなる重圧だと思う。でもね、この「域」に達した選手はみんなとっても魅力的だ。
そういう選手は勝てばもちろん美しいし、負けてもやはり美しい。
選手の競技寿命が伸びることで、こういう輝きを見せることができる選手が増えていくのは嬉しい。
リオオリンピックも残りわずか。多くの選手の努力の4年間が、本人にとって勝っても負けても美しく報われる試合が多く続きますように。
福原愛選手のブログから
最後に、東京は?2020年は?という質問がとても多くあります。
リオオリンピックが始まる前からありました。
正直な気持ちを話させていただくと、私はまだ昨日試合が終わったばかりです。
生半可な気持ちで決断できることではありません。
人生をかけて、卓球をしています。
終えたばかりで私も私の気持ちにまだ全く向き合えていないのが現状です。
ですから私にきちんと考える時間を頂ければと思います。
色々なことを考慮した上でじっくり納得のいく答えを出したいと思っています。
自分と向き合い、答えが出たらまた皆さんにご報告したく思っております。
リオを終えて。|福原愛オフィシャルブログ Powered by Amebaより引用
福原選手だけでなく多くの選手が終わったあとは率直にこういう気持ちだと思う。まずはその重荷を下ろして、これからのことはまず休んでからゆっくりと考えることができますように。お疲れさまでした。
そしておめでとうございます!