ポーの一族の素晴らしさを未読者を沼に引きずり込むつもりで書いてみる。 | Rucca*Lusikka

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ポーの一族の続編が、今年から月刊Flowersで毎月連載になりました!

ポーの一族といえば萩尾望都先生の代表作のひとつですが、1976年に「エディス」が発表されて以来新作はなく、これで終わりかな?という感じで40年間続編は描かれていません。

昨年、40年ぶりに新作執筆!というニュースを見た時は、胸が震えるというか、ドキドキが止まらないというか、ああもう生きててよかったという思いでいっぱいになりました。今年からはさらに毎月連載だなんて幸せすぎる。

そんなわけでわたくし、30年ぶりくらいに少女マンガの月刊誌の定期購読をはじめました。

少女の頃は月刊誌を待つ1ヶ月はとてもとても長かったのに、大人になるとひと月がとても早いため「え?もう続きが読めるの?」という新しい発見があります(笑)

萩尾望都作品との出会い

私が萩尾望都先生のマンガをはじめて読んだのは小学3年生の時で、兄が買っていた少年チャンピオンに掲載されていた「百億の昼と千億の夜」だった。

登場人物が阿修羅王(なぜか少女)に悉達多太子(釈迦)にプラトンにナザレのイエス(キリスト)というスケール大きすぎのSFで(原作は光瀬龍)、小学生にはチンプンカンプンだったけど物語の難解さが逆に興味深くおもしろく、絵もすごく神秘的で壮麗で、単行本がボロボロになるくらい読み込みました。(その後特別装丁本が出たので買い直し)

でも少女マンガを読むようになってからは、私は「なかよし→りぼん→LaLa」コースを辿ったため「少女コミック」系のマンガに疎く、「萩尾望都」のその他の作品をほとんど読まぬままハタチを迎えてしまった。

すでに「ポーの一族」「トーマの心臓」は古典に入りつつあり、読んでみたくても単行本が書店にあまり置いていないため(当時の町の本屋はみな小さい)、なかなか読める機会がなかった。

しかし80年代半ばから後半にかけ、「萩尾望都作品集」というシリーズが「第一期」と「第二期」で17巻ずつ発売されたのです。

萩尾望都作品集第二期。1・2巻の「百億の昼と千億の夜」はA5判本を持っていたため未購入

そこで「百億の昼と千億の夜」と世界観が似てるという「スターレッド」から読みはじめ、「銀の三角」に行き、「半神」「訪問者」「A-A’」「エッグスタンド」と、あとは芋づる式にどっぷりと沼に落ち「第二期」を制覇。

さらに絵柄が古いと思って最初は敬遠していた「第一期」にも手を伸ばし、そこでやっと「ポーの一族」に出会ったのでした。

なんでもっと早く読んでおかなかったんだろう!

これに尽きる。

いやもうこれ名作なんてレベルじゃないとんでもない名作なお話。こんな素晴らしいマンガが日本で生まれたなんて。最近のテレビの日本スバラシイ番組には食傷気味だけど、このマンガを生んだことはもっと世界に誇っていい!

何回読んでもおもしろい、何回読んでも深い、何回読んでも褪せない!

さてでは、ポーの一族を「名前は聞いたことがあるけど実はまだ読んだことはない」というもったいなくも羨ましい(これから読むという楽しみがある!)方のために、どのような話かを説明しましょう。

ポーの一族のざっくりとしたあらすじ

私が持ってるポーはこの「第一期」の単行本。解説付きが嬉しいが紙質が実はいまいち…(泣)

18世紀半ばのイギリスから物語ははじまる。

エヴァンス伯爵の庶子だった幼いエドガーとメリーベル兄妹は、母が亡くなったあと父の本妻の差し金で殺されそうになるが、運良くとある村の館に引き取られそこで成長する。しかし兄のエドガーはそこが吸血鬼(バンパネラ)一族の館だということに気がついてしまい14歳で仲間に入れられてしまう。

引き換えに10歳のメリーベルは人間の家に養子に出されるが、13歳の時にエドガーによって自分もバンパネラになる。

14歳で時が止まり、永遠に歳を取らず、死なず、そのために人間の血を必要とし、心を冷たくしたまま胸にあるのは妹・メリーベルへの愛だけというエドガー。

エドガーの妹であることだけが、自分がこの世に存在する意味の全て…というメリーベル。

少年と少女のままで永遠の一族になってしまったこの二人の、共依存的な生存戦略(生きている理由探しというのか)が物悲しく美しいのだ。

ポーの話は時系列に進んでいるわけではなく、18世紀〜20世紀の間を行ったり来たりするオムニバスストーリーで、それぞれサブタイトルがついている。

ほとんどが短編で、一番長い「小鳥の巣」でも単行本一冊以内に収まるボリューム。最終話「エディス」までを収録した単行本は全4巻(編集した本の形態にもよる。現在発売されている復刻版では5巻)だ。

物語の時系列と、作品の発表順と、単行本での作品の収録順がそれぞれ異なっているのでややこしいが、物語を時系列で前半と後半に分けるとしたら「メリーベル」が存在するのが前半で、メリーベルと入れ替わりに「アラン」が登場してからが後半になる。(その交代劇が単行本の第一話というのがまたドラマチック)

そして物語をふたつの側面から見て分けるとすれば、エドガー側の生い立ちやバンパネラとして存在していくストーリーと、歴史の中でエドガーたちに出会った人間側のストーリーがある。

そして20世紀後半になったところで、18世紀半ばから残るエドガーたちの存在の痕跡を丁寧に集めたオービン卿による「バンパネラハント」の話がはじまる。(「ランプトンは語る」「エディス」

ハントといってもこの時点(1976年で連載時はリアルタイム)では、18世紀の「十字架を持て〜!胸に杭を打てー!」的なものではなく、「彼らは本当に存在するのか?」という純粋な興味とロマンチシズムからものだ。彼らは果たしてエドガーに逢うことができるのだろうか?

・・・そしてそこで物語は止まり長い眠りに入ったのでした。

それからリアルタイムで40年、ついに!物語が!また!動き出したんですよ!この興奮伝わりますか???

物語が40年後に動きだすことの符号

バンパネラハントの老オービン卿は若い頃にエドガーに出会ったことがある。1934年のロンドンで、彼はエドガーと同じバスに乗り合わせる。

オカルトかぶれで霊感を強くするために髪を伸ばし、千鳥格子の帽子をかぶっていた若き日のオービンに、エドガーが話しかけてくる。

「シャーロックホームズの帽子だ
 長い髪だね あなた人間?」

見知らぬ少年に話しかけられてオービンは

いや、魔法使いさ!

とウィンクして答える。すると少年は微笑んで

「ほんとうだあなた 魔法使いの目をしてる」

と言うのだ。

「ホームズの帽子」よりシーン再現(セリフ以外は私が付け足したもの)

そしてその後ある事件が起きて…の内容は本作をご覧になっていただくとして、事件以降オービンはその不思議な少年を長年探し続けていた。

1976年、ついにその痕跡を身近に見つけたある日、彼はこんな夢を見るのだ。

霧の中、あの日のままの少年がこちらを見ている。

・・・きみはエドガーか?
私のことなぞ忘れたろうね

少年は妖しく微笑んで言う。

「おぼえているよ 魔法使い」

老オービン卿は静かに涙を流し、少年の前髪に手をやる。

「ーーーぼくは行かなくちゃ」

少年は霧の中に消えていく。

「エディス」よりシーン再現(セリフ以外は私が付け足したもの)

美しすぎるエドガーとアラン♡

 

オービンが最初にエドガーに逢ったのは1934年。つまりこの1976年時点であれから40年余。

そして1976年から40年後の2016年に連載再開。

これが何を意味しているかというと、エドガーに初めて逢ったときから40年というオービンの辿ってきた人生の時間を、まるまるリアルタイムで私たちファンも辿ってきたということなんですよ!(私はリアルタイム世代じゃないので実際は30年なんだけどそれはそれとして)

「私のことなぞ忘れたろうね」

「おぼえているよ 魔法使い」

このやりとりはそのまま、私たちとエドガーの会話になるのです!これってすごいことじゃないですか?

しかもエドガーはあのときのまま14歳の少年なのに、私たちはこんなにもババ…い、いや、大人になってしまっている!

「私のことなぞ忘れたろうね」

「おぼえているよ」

14歳のエドガーがそういって微笑んだ相手は、オービンであり我々でもあったのだ。

私も涙を流しながら、エドガーの前髪に触れることができたらいいのにとオービンに嫉妬です(笑)

しかし萩尾先生が続編を描かなければ、私たちが新しいエドガーにもう一度出会うことがなければ、これらの思いも過去のまま永遠に封じ込まれていたわけです。

先生。よくぞ描いてくださいました!

40年ぶりのポーの一族で明かされていきそうな謎

さて、そんなわけで去年の夏に再開されたポーの一族の新作「春の夢」は、当初前後編くらいの話になるかと思いきや、萩尾先生の筆がノッてきたらしく今年から毎月の連載となりました!

「春の夢」は月刊Flowers2016年7月号に掲載。売り切れで異例の増刷が出ました。

舞台は1944年、第二次世界大戦中のイギリス・ウェールズのアングルシー島。ロンドンの空襲で被災したエドガーとアランは「後見人」のすすめでこの地にやってくる。そこでブランカとノアというドイツから親戚を頼って疎開してきたユダヤ人の姉弟に出会う。

1944年ということは、最後の「エディス」の続編ではなくそこから20年前の話でした。

1959年、エドガーとアランがドイツの全寮制の学校(ギムナジウム)へ行き、そこでキリアンたちに出会う「小鳥の巣(シリーズ最長作)」よりもさらに前です。

ポーの一族ではいくつか未だにわからない謎があって、そのひとつに「キリアンのその後」があるんだけど、今回は時代がそれより前なのでその謎は今作では明かされないかもしれません。

しかし、「ポーの村はどこにあるのか」と「ポーの一族とはそもそもなんなのか」の謎はどうやら解明されていきそうでドキドキする。

エドガーたちはポーの村を探し当てたのか?

エドガーがメリーベルとポーツネル男爵夫妻と共にポーの村を出て、さらに彼らと別れて以来、エドガーはアランとともにポーの村を探していたようで、村の入口の情報を掴んだらしい同族のポリスター卿を訪ねに行く話があります。(「ピカデリー7時」より)

ポーの村への入口は隠されていて普通の人には入ることができない。

過去にそこへうっかり迷い込んでしまったグレンスミス男爵は吸血鬼にされることなく帰されるが、その後何度も探したけどバラの花咲く不思議な村の入口を見つけることはできなかった。(「ポーの村」より)

ピカデリー7時の話が西暦何年なのかが不明なのだけど、服装や社会の様子からおそらくはオービンと出会う頃、1930年前後じゃないかなと思う。

そして今作の「春の夢」で、エドガーは「ポーの村からの使い」という女性に会いに行く(フラワーズ3月号掲載)ので、その後彼らはポーの村を見つけてそこに行ったのだと推測できる。またはポーの村側が彼らに何らかの接触をしたか。

ポーの村からの使いの女性に会いに行く理由を、エドガーは「契約の話」といいアランを家に置いていくことから、アランはその「契約」について知らなさそうな感じ。そしてエドガーはなんとなく行くのが嫌そう。

な に が あ っ た ん だ ろ う ?

ああもう気になる!

さらにはポーの一族ではないバンパネラ・ファルカの登場で、吸血鬼一族には様々な派生があることがわかった。

もうね、謎が謎を呼びものすごい大展開になりそうで、期待値が高まりすぎてヤバイです。

新しいエドガーはどこまでもエドガーだった!

萩尾先生が素晴らしいのは常に期待値を超えた作品を出してくるところ。裏切られたり期待はずれだったことはただの一度もない完成度の高さ。

今回の連載がどのくらい続くのかまだわからないけど、第2次世界大戦とユダヤ人の姉弟、ウェールズという迷信深い土地、新しいバンパネラ・ファルカの登場などから、もしかしたらけっこう長くなるのでは?と期待しています。

40年ぶりに、もはや少女マンガの古典ともなっている自身の名作の続編を描くというのは、すごいプレッシャーもあると思うのだ。当時と絵柄も違うし、ファンの中の想い出の中に住んでいたエドガーを動かすわけだから、中にはそれに怒る人だっているでしょう。

しかし新しいエドガーは絵柄こそ昔と違うとはいえ、私にとっては完璧にエドガーだった。

新作でのエドガー

萩尾望都「ポーの一族」新作が40年ぶりに登場!flowersに掲載 – コミックナタリーより画像引用

第2話でエドガーが森のなかでカラスたちに「来てくれ ファルカ」と呼ぶシーンがあって、そこにちょうど現れたブランカとノアに「誰かいるの?誰か読んでた?」と聞かれて、

「…誰も 思い出を呼んでみてた」

月刊Flowers3月号「春の夢」より

っていうんですよ。もうエドガーでしょ。エドガーじゃないといわないでしょこんなこと!(感涙)

萩尾望都の「超絶技巧」とは

単なるスピンオフではなく、しっかりとした連載として新たに物語を動かしていく萩尾先生の創作パワーに、ファンとしてはもう

「あなたのファンでほんとうに心から良かった」

以外の言葉はないです。本当にありがとうございます。(拝)

萩尾先生が物語を紡ぐのがいかに上手いかはその「凝縮力」にあると思う。とにかく物語を短くまとめるのが上手い。短く、詩的に、美しく切り取り、余白を大いに残すことがとびっきりに上手いのだ。

それってひとつの「超絶技巧」だと思ってる。その技法が最も華麗に使われてる作品がこの「ポーの一族」の中にあるのだ。

それは「グレンスミスの日記」

1899年、若き日のグレンスミス男爵がポーの村に迷い込んだ時の日記を、娘のエリザベスが父の遺品整理の時に見つける。これはそのエリザベスの生涯を描いた作品です。

エリザベスはドイツ人の音楽家と恋をするが、親族に反対されたため駆け落ちしてドイツに渡る。そこで3人の子どもが生まれるけど、その後戦争が始まり夫が亡くなる。

生活に苦労しながら子どもたちを育てるも次女が病死。戦争が終わって長女と三女が結婚し平和になり、いつしか孫が生まれるもさらにまた戦争でその長男を亡くす。そんな激動の時代を生きた女の一生の、朝ドラで半年がっつりやれそうな壮大な話なんだけど、

これがなんとわずか24ページの短編!

…で描かれているんですよ。とても自然に、なめらかな詩のように。これはすごい技術です。

エリザベスが心の安らぎを求めて折々に読んだのが、バラの花が咲く不思議な村の話が書かれた父の形見の日記だった。

そしてエリザベスが亡くなってのちの1959年、彼女の孫のそのまた息子が学んでいるドイツの全寮制の学校に、ある日2人の転入生がイギリスからやってくる…。

エリザベスのひ孫の話は「小鳥の巣」につながっていきます。

もうすごいとしか言いようのない構成力。これを描いていたのがまだ20代の時ってどれだけ天才なんですか!

グレン・スミスの日記はポーの一族の1巻に収録されているので、これはもうぜひ読んでみて!そしてその構成力に圧倒されてみて下さい。

まだポーの一族を読んでいない人!

いいから読め!絶対に!おもしろいからっ!

私からは以上です(笑)

去年行った「萩尾望都SF展」にあった、百億の昼と千億の夜の阿修羅王。

さて、新作ポーが載っている月刊フラワーズの4月号の発売はもう来週!

当時の少女の気持ちで、その発売をドキドキ待ちたいと思います♡

春の夢・最終話を読んでの感想

紹介した書籍

春の夢一話が載った月刊FlowersはKindleでも販売されています!

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あとがき

エディス以降の話も気になりますが、それはそれで知らぬままでもいいように思えてきます。iPhoneを使ってTwitterでつぶやくエドガーはあまり想像したくない(笑)

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